ランナーズ・エクリプス 2nd fallの紹介

「ランナーズ・エクリプス 2nd fall」は「ランナーズ・エクリプス」に、新規オフライン用モード「シナリオB」を中心に複数の新要素を追加したものです。「2nd fall」=「シナリオB」と捉えていただいてもおおむね間違いないです。

新しい要素

オフライン用モード「シナリオB」
レベル限界値が40→50に上昇
新コマンド「イージス」「ツインチャージ」「コキュートス」
ゲーム中で使用されたCGの鑑賞モード
戦闘エフェクトの変更機能(PARTNER)

シナリオB概要

基本的にはシナリオAと同じで、戦闘と会話が交互に繰り返されるゲームモードです。例えるなら「ロードランナー」に対する「チャンピオンシップロードランナー」のようなもので、「ランナーズ・エクリプス」をやり尽くした方を対象に、究極の難易度のゲームを提供することを目的としています。有志の熟練プレイヤーの方々によって作られた30体の敵はそれ自体が難問ですが、これにレベル固定制(戦闘で経験点が入手できない)と、全コマンドとフォーム(アドバンスドモード)をレベルによる制限なしに使えるという特殊ルールを採用することで、思考ゲームとしての純度がより高くなっています。

低レベルでもフォーム・上級コマンドが使えるため、通常のモードでは不可能な構成が可能になっており、シナリオA・アリーナとは大きく異なるゲーム性になっています。また新しく追加された3つのコマンドはどれも非常に特殊な効果を持っており、戦術がより多様化しました。

難易度が非常に高い一方で、戦闘を全て回避できる「スキップモード」があるため、誰でもクリアすることが可能です。もしくはネット上の攻略記事(特にこれは解法がとてもスマートで、読み物としても面白かったです)を参考にするのも良いかと思います。

物語

「シナリオB」には「シナリオA」ではほとんど描写されることのなかった作品世界を補完する目的もあり、3人のヒロインとともに脅威と戦う物語でもあります。具体的にどんなお話なのかについてはすでにあらすじと登場人物に書いたので、ここではもっと構造的なことについて書きます。

シナリオBはシナリオAと対応する内容で、Aではほとんど触れられなかったランナーズ・エクリプス世界の成り立ちを描写することに重点が置かれています。まず特異な世界があって、その世界を理解する過程自体が物語という、よくあるSFの文法です。視点・時系列がバラバラの103個のシーンで構成されていて(戦闘だけのシーンもあるのでテキストぎっちりというわけではない)、全ての謎が解けると同時にエンディングを迎えるというタイプの、まあまあ長いお話。選択肢はなく進行は直線的で、セーブが自動で行われるのはシナリオAと同じ。一度見たシーンはいつでも「回想」のリストから容易にアクセスできるので機能的な不足はないと思います。

見た目が完全に伝統的なアドベンチャーゲーム(もっと直接的に言えばエロゲ)なので恐らく誤解を招きやすいと思うのですが、恋愛要素はそんなに多くないです。ある種の愛情表現はあるけれどそんなイチャイチャはしないというか。あとHシーンが計6つあって、詳しくは後述するのですが、これを目的に買うというのはちょっとおすすめできないです。

自分がシナリオBでやりたかったのは、自分の好きなもの、つまり50年代以降(アシモフ、ハインライン、アーサー・クラークの時代)の古典SFのパッチワークでした。そういう作品が今ないから(特にゲームでは)作りたかったというのも当然あるのですが、根本にはあるのは好きなものを徹底的に蒐集したいというストレートな欲望です。固有名詞の一つ一つに至るまで意味をこめて、徹底的に自分の好きなもので埋め尽くす。それはたぶん作曲というよりはDJのミックスをやるような快感の作業でした。基本的に自分が昔書いた文章を読むなんて反吐が出るのですが、このシナリオBは今でも例外的に楽しめます。

参考文献として引用元の作品をこちらに載せていますが(アシモフを中心にいっぱい欠落してるけど)、核にあるのはハインラインの作品。ハインラインの作品では、優れた能力を持った人格者で、望めばどんな栄華も得られるはずなのに、自らの職務のために淡々と死に行く男が、主人公のメンターとして毎度のように登場します。主人公の「なぜそんな得にならないことをするのか?」という問いに対して、彼らは「それが大人の仕事だから」と答える。自分はハインラインの主張するこのテーマが本当に好きで、いつかそういうお話を書きたいと思っていました。

古典SFから引用していない部分としてHシーンがあるのですが、こいつははっきり言って余計です。例えばA martyrのようなゲーム内容上必須のものではない。じゃあなんでやったんだよという話なのですが、これは自分が2000年前後のエロゲ文壇なるものが存在したころの、”エロゲする気ないだろう系エロゲ”を引きずっている人間で、無理矢理挿入されるHシーンが体に染みついていたからだと思います。例えばゲームの移植作業においてバグまでわざわざ再現するような歪んだ愛情というか。要するに一度やってみたかったからやった。単純に流通を考えれば「2nd fall」は18禁要素を入れない方がいいと思います。もし自分がプレイヤーで、「ランナーズ・エクリプス」の後に「2nd fall」の販売ページを見たら確実に引くと思う。

(補足)シナリオA

シナリオBのついでにシナリオAの紹介をします。

シナリオAはざっくりワンセンテンスで書けば「悲劇的な生涯を送った男が、世界に対して無謀な復讐をする物語」です。ランナーズ・エクリプスには「内の世界と外の世界」という対立構造があって、主人公は外の世界の人間なのですが、弱肉強食の世にあって犠牲であり続けた彼にとってそこは故郷ではなく、むしろ憎悪の対象であって、内も外も等しく敵でしかないのでした。イメージとしては狂い咲きサンダーロード。ちなみにシナリオAはこれはこれで完結しています(というかこれ以上は余計だと思う。ある意味ではBさえも)。

ちなみに「TIPS」の大部分はシナリオBに関係するもので、シナリオAを進める上ではあまり必要ないです。

(補足ですらない余計な話)

自分が古典SFを好きになったのは、建設的な未来を描いていることが非常に新鮮だったからです。自分はバブル崩壊以降の時代を生きてきて、未来はろくでもないというヴィジョンは当然あるのですが、「未来を描いた作品」がどれもこれもネガティブで批判的であることには辟易としていました。核の脅威以後、SFはテクノロジーに対する警鐘を鳴らす社会的役割を担うというパラダイムシフトがあったわけですが、それを今の時代にやる意味ってそんなにあるのか? というのが自分の疑問です。結局、人間は脅すだけでは動かないというか、そのアプローチはもはや限界なんじゃねーのという思いがあって、だからむしろジョン・W・キャンベル的価値観、いろいろ大変なことはあるけれど、がんばっていればいつか人類は結構良いとこまでいけるんじゃねーの、くらいの方が全然受け入れられる。

特に気になっていたのが、たぶん映画「マトリックス」の影響が大きいと思うのですが、いずれ訪れる「高度に情報化された管理社会」がディストピアであることが創作において半ばお約束となっていることで、そういう社会で人間が幸せになったらだめなんて誰が決めたんだよ? という反発が常にありました。だから「シナリオB」は一見怖そうだけど実はこの上なく慈悲深い神様と人間たちが、人類を守るためにがんばって高度に情報化された管理社会を維持するという優しいお話にしようと思いました。もちろんそれで安定してしまったら物語にならないので事件を起こすわけですが、そこはきっと実存の問題、どんな完璧な世界であっても奴隷のままではいられないよという自意識の反映でもあるんだろうなあと思います。