サイバーパンクというジャンルは自分にとってはダサいもので、あまり魅力を感じていない。とんでもなく急激に消費されたせいで形骸化しちゃったいうか。記号化された「サイバーパンクっぽい要素」を入れていれば許されるという雰囲気が好きになれないというか。サイバーパンクという言葉が死ねばいろいろ改善されるのに。
たまに現代技術がサイバーパンクを追い越しちゃったせいで魅力が減って云々などという話を聞くけど、追い越したのは技術ではなくディストピア度で、そっちの方が致命的なんだよとか、いろんなことを考える。結論としてはサイバーパンクは微妙だけど、ギブスンと黒丸文体はすごい。以上。
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『地球の長い午後』は、植物が地球の支配者になった遠未来の物語だ。植物は本来動物が占めるべき生態的地位まで進出していて、地面を歩き回るどころから空を飛ぶものもいる(ついでに宇宙まで飛ぶ)。人間はこの世界において圧倒的な弱者だ。しかも退化していて、体は小さく知能は低い。ただでさえ絶滅しかけているのに、冒頭からどんどん植物に喰われていく。
だが一人の人間がアミガサダケというキノコと出会い、「世界の裏側」への壮大な物語が始まる。果たして人類の反逆は成功するのだろうか。乞うご期待(とりあえずアミガサダケは腹立つほど役に立たないということは明かしておく)。
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本当に好きな作品であるほど、説明する言葉に困る(ここに載せた作品全部が、そうと言えばそうなのだけど)。何について語ればいいのか、どうすればこの傑作を手にとってもらえるのか。
まず一つ言えるのは、この小説はスタートダッシュの時点ですでに最高だということだ。冒頭の「ジョウント」に関する解説、それによる世界の変貌は、決して長くはないけれど、この小説の圧倒的なパワーを読者に知らしめるに十分だ。物語は宇宙空間に漂う、幅1メートル20センチ、高さ2メート70センチのロッカーの中で始まる。主人公はこの狭い気密室で170日間も遭難してきた。長すぎる忍耐の末、ついに宇宙船が彼を発見するが、その船は彼を見捨てて姿を消してしまう。
想像しうるかぎり最悪の状況。そして主人公は、そこから神がかった機転で生還するのである。その時点でたったの30ページ、そして驚くべきことに、この小説はその密度がずっと続くのである。
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もし第二次世界大戦で枢軸国側が勝利していたら……という設定の並行世界の物語。かなり日本文化がフィーチャーされていて、主役の一人が日本人だったり、ヒロインが柔道のインストラクターだったり、短歌が詠まれたりする。登場人物が誰も彼もしょっちゅう易経をしている様子を見て、もしかしたらトンデモなお話なんじゃ……と思いきや、非常に抑制がきいたマトモな話である。
話の内容とは関係ないが、ハヤカワから出ているディック作品のカバーデザインは、どれもシンプルで抜群にセンスがいい。
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地球外生命体とのコンタクトはSFにおける最もポピュラーなテーマで、過去から現在まで無数の作品が存在するけれど、『ソラリス』はその古典でありながら、究極形とも言うべき何かだ。ソラリス以降で、ソラリスの概念を踏まえない地球外生命体の物語はどうしたって陳腐になる。SFにおける影響力という点では屈指だろう。
惑星ソラリスの「海」の描写は読む者を圧倒する。人間の想像力の限界を垣間見るような、SFの極北と呼ぶべき作品。
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「SFメルヘン」と銘打っている通り、童話的な雰囲気の、かわいらしい(本当にかわいい!)作品だ。装丁は子供向けで、実際子供も読めるだろうけれど、使われている語彙は一般小説のレベルなので、やはり大人向けの小説だろう。
長旅を経て、主役の電気器具たちは少しずつ摩耗していくが、その描写は結構きついので、真面目に読むと暗澹とした気持ちになってしまう(特に自暴自棄になるシーンは辛い)。あなどれません。
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月で発見された人間の死体――調査の結果、死後五万年が経過しているという異常な事実が判明した――という冒頭から、あとはひたすら分析。殺人が起こったりとか、基地が爆発したりとか、闇の組織の陰謀とか、そういうのは一切ない(途中木星がごにゃごにゃとかあったりするけど)。仮説を立てては棄却され、そのたびに真実に近づいていく、それらの過程を楽しむ小説だ。
サイエンスの根源的な面白さを読む人に気づかせてくれる、本当に優れたSFだと思う。そしてラストシーンがすばらしい。自分が読んだSFの中で、最も好きなラストシーンの一つだ。
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ベスターといえば『分解された男』と『虎よ、虎よ!』。この2冊をもって、彼こそが史上最高のSF作家であると断言しても反論は少ないと思う。
「虎よ、虎よ!」は傑作ではあるけれど、哲学的な問題に足をつっこんでいることもあり、少し難解な部分(特に終盤)がある。しかし『分解された男』は、徹頭徹尾、純粋な娯楽小説だ。作中にあらわれる全てのアイテムが、それ一つで短編が書けるくらいに刺激的で、退屈な場面が存在しない。文体は軽やかで(沼沢洽治の訳もいい)、独特のタイポグラフィがいいアクセントになっている。
権謀術数が飛び交う、比類ないスリルに満ちた物語でありながら、最後はなんとも心温まる、喜びに満ちた結末を迎える。その着地は見事だ。
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